◇第8回 担保以外の保全策◇
第8回は前回に続く形で担保以外の保全策についてお話させて頂きます。
■3.担保以外の保全策
担保以外の「その他保全策」にも色々あります。
- 与信・決済期間(サイト)の短期化
当然ではありますが与信・決済期間が短いほどリスクは小さくなります。平常時の取引においてもサイトの短期化を心がけるべきですが、繰延に応じる場合には特に繰延する期間は極力短くしましょう。
- 遅延金利の設定
通常の取引においても契約時には遅延金利を設定するようにしましょう。いざ遅延が発生してから遅延金利の交渉を始めても、条件面で折り合えるかには不安があります。取引開始時から遅延金利を契約書に盛り込むようにしましょう。
取引先の身になって考えてみると分かりますが、「遅延金利の規定がある仕入先」と「遅延金利の規定がない仕入先」とがあった場合には、金利はできるだけ払いたくないものですから、当然の結果として「遅延金利の規定がある仕入先」に先に支払いを行うはずです。同様に、支払いの繰延要請に応じる場合にも遅延金利は設定すべきです。その場合には、先に繰延期間相当分の金利を現金でもらうようにしましょう。
- 手形化(廻り手形・保証付手形):
手形の場合には、「不渡り制裁」という支払強制力が働きますので、現金決済よりも強力です。「不渡り制裁」というのは、「銀行取引停止処分(6ヶ月間に2回手形・小切手の不渡りを起こすと銀行取引が出来なくなるという処分)」を意味しますが、現実的には、1回不渡りを起こすと「信用不安」が蔓延してしまい、倒産に追い込まれてしまうことです。決済方法を手形にしておけば、強制執行をする場合の前提となる「勝訴判決(債務名義)」取得が比較的簡単です(手形訴訟は手形の形式さえキッチリしていれば通常3ヶ月程度で勝訴判決を取得できます。結果、不渡りが発生した時点で取引先資産を仮差押えすることにより、比較的早期に回収が可能となります)。
また、代金を手形でもらうとしても、廻り手形(別の者が振出した手形に取引先が裏書をした手形)にしてもらったり、手形の券面上に別の者に保証(「手形保証」といいます)をしてもらえば、その廻り手形の振出人あるいは手形の保証人による保全効果が期待できます。
また、廻り手形は、通常の取引をする場合でも保全策として是非活用しましょう。リスク分散効果(取引先のリスクを振出人にヘッジする)と共に、取引先の販売先をモニタリングできる(廻り手形を継続的に取ることによって、取引先の販売先に変化がないかをモニターできる)という副次的効果もありますので活用度は非常に高いです。
- 相殺の活用:
物的担保を取付けることは実務上なかなか困難なことも多いですが、相手先から何か商品を買うことができれば(あるいは「リベート」債務等あれば)、その買掛債務(あるいは「リベート」債務)と相殺することにより、実質的に売掛債権を回収できますから安定的な「買いの取引」は「担保」と同様の効果を生みます。
「相殺」をする場合の留意点ですが、一番の問題は、相殺する「売掛金の期限」の問題です。「相殺」するには「相殺適状」といって、「売掛金」(「自働債権」といいます)と「買掛金」(「受働債権」といいます)の両方の支払期限が到来していなければなりません。
「買掛金」の期限の利益(「期限の利益」は後述参照)は、いつでも我々が放棄できます(将来払う代わりに今払うわけですから相手方の権利は損ねません)ので、問題は「売掛金」の期限になります。
売掛金の期限の利益を勝手に相手先から奪う(将来払う代わりに今払わせる)ことはできませんので、仮に「買掛金」の支払期限が売掛金より先に来てしまいますと、我々が先に支払わなければなりませんので「相殺」はできなくなってしまいます。
「売掛金」が焦付くと分かっているのに「買掛金」の支払いを行うと、とても悔しい思いをします。「相殺」を活用できそうな取引先については、あとで悔しい思いをしないように、予め契約書をキチンと結んで、「期限の利益の喪失」の条項を盛り込むことが望まれます。尚、相殺の実行は、前述の内容証明郵便で相手方に「通知」すればOKです。
- 取引ルートの変更(取引ルートの変更は慎重に):
相手先へ直接売ることが躊躇されるような場合、取引ルートを変更することも考えられます。つまり、どこか信用のできる先を経由して売る方法です。但し、信用不安が出た後に事後的に変更する場合には慎重に行いましょう。
例えば既存の得意先に頼んで取引の間に入ってもらうようなことはしない方が賢明です。万一、その相手先が倒産した場合には、間に入ってもらったその得意先から強硬なクレームが来ることが予想されますし、他の重要な商売までもなくなってしまうことが十分に考えられます。「取引ルートの変更は平常時に!」が原則です。したがって、繰延要請が来た後に取引ルートの変更を検討する場合には慎重に検討することが肝要です。
次回は 相手先が倒産時の対応をご説明します。